アジアの頭陀袋

頭陀袋の歴史

お坊さんが持つ簡素な肩掛け鞄のことを頭陀袋と言う。頭陀とは托鉢行脚の修行のことだが、現代日本語ではざっくりと物が入る同じ形状の鞄のことも頭陀袋と言う。タイ語で頭陀袋を指すヤームという言葉には頭陀という意味は含まれておらず、広くこの形状の袋のことをこう呼んでいる。インドでジョリーと呼ばれるのもヒンドゥー行者のサドゥーだけでなく、広く一般の人に愛用されている袋だ。想像するにインドで使われていたこの袋が仏教にも取り入れられ、仏教の伝播と共にアジア各地に広まったものだろうか。インド、チベット、東南アジア、中国、台湾、韓国、日本、どこの国のお坊さんも頭陀袋を使用するのだが、なぜか日本だけが鞄部分に紐を括りつけた特殊な形をしている。今では高価な素材を使ったり、夏用、冬用、ファスナー多用や携帯入れ付きなど、日本製はどんどん華美になる傾向にあるが、こうなると是非はともかく、もはや頭陀の袋とは呼び難いのではなかろうか。 

頭陀

頭陀とはdhutaの音写で、寺に住まず、寺より厳しい戒律で行脚する修行を言う。タイ語では「トゥドン」と訛り、頭陀僧のことをプラ・トドゥン、行脚に出ることをパイ・トドゥンと言う。寺から出てはいけない安居期間が終わると、一時出家者たちはトドゥンという名目で嬉々として卒業旅行の巡礼に出る。

頭陀袋の発生

原始仏教及び上座部仏教の六物、大乗仏教の十八物と呼ばれるお坊さんの持ち物規定に頭陀袋は含まれていないため、正確な起源はわからないが、現在の分布を見ると、上に述べたように、インド起源である可能性が高いと思う。

タイのヤーム ยาม

お坊さん用に限らない、鞄としてのヤームについては「タイ現代情報事典」(ゑゐ文社)174頁参照。

タイのヤームは日本のアジア雑貨店などでもおなじみ。

ブッダガヤの頭陀袋

ブッダガヤには仏教徒用の頭陀袋を作って売っている縫製店が何軒かある。

写真は「ブッダガヤ」の文字入り頭陀袋。ブッダガヤでは坐禅用の坐蒲もインド人が見よう見まねで作っている。質にこだわらなければ、世界一安い坐蒲が手に入るから、お気に入りのマイ坐蒲を持ち歩く旅行者も多い。

インドのジョリー झोली झोला

写真はオームの文字が刺繍された比較的高級なもので、日本式に形状が似ている。

普通のサドゥーは他国と同じ袋状の、もっと小汚い、と言うことはつまり、より修行者らしい頭陀袋を持つことが多い。

大きいものはジョラー、小さいものはジョリーと言う。

韓国の頭陀袋

釜山の梵魚寺で入手。韓国のお坊さんは衣と同じねずみ色のリュックサックを背負うこともある。

日本の頭陀袋

日本だけ形が変化した理由は不明だが、絵図などを見る限り、江戸時代には既に現在と同じ形だったようだ。

紐を括りつけてあるだけでなく、袋が蓋で覆われているのも特徴だ。また袋を首から提げるのも日本だけのスタイルだ。

台湾の頭陀袋

ブッダガヤで行われた、台湾佛光山による国際尼僧授戒会の記念品。