お坊さんの呼び方1

パーリ語ではお坊さんを敬って「バンテー」と呼びかける。尊師という程の意味だ。

タイではタマユット派を除いて、タイ語訛りの「パンテー」という発音になるのだが、日常的なタイ語では、住職級の僧侶を含む年長の僧侶は「ルンポー」「ルアンポー」、若い僧侶は「ルンピー」「ルアンピー」と呼ぶ。

中間の年齢の僧侶の呼び方をメーチーに聞いたら、タイ人は若く見られるのを喜ぶから、ルンピーと呼んであげてくださいと言われた。

 

インドでは上座部(テーラワーダ)仏教と大乗仏教のお坊さんが共存しているが、ブッダガヤでは日本僧のみ、「センセイ」、もしくはヒンディー語の敬称である「ジー」を付けて「センセイ・ジー」と呼ばれることが多かった。

 

インドでは、チベット仏教系のラマ僧は「ラマ・ジー」、ラマ僧以外の上座部僧や中華僧、韓国僧などの大乗仏教僧は「バンテー・ジー」と呼ばれていた。日本僧も「センセイ」と呼ばれない場合は「バンテー」と呼ばれるが、ネパールでは反対に「ラマ・グル」と呼ばれた。ネパールではお坊さん全部を「ラマ」と表現するわけだ。

 

一方、日本語の中で、どのお坊さんにも通用する呼びかけの言葉を探すのは案外難しい。「ご住職」と言っても相手が住職とは限らないし、「御坊」や「御出家」では時代劇だ。禅宗では「方丈さん」「和尚さん」、日蓮宗では「お上人」、浄土真宗では「先生」と呼ぶが、他宗の者には違和感がある。

 

「和尚さん」という言葉は本来高位の僧侶の敬称なので、僧侶全般に対する呼びかけとしては悪くないのだが、使い慣れていない人には昔話のような印象を与えるかも知れない。「和尚さん」が訛った「おっさん」という西日本の言葉も僧侶全般に使える便利な言葉なのだが、若い人はあまり使わなくなっている。関西弁で「お住持さん」が訛った「おじゅっさん」も、今では年寄り言葉だ。

相手がどこの僧侶かわかっていれば「○○寺さん」のように寺名でも呼べるが大きなお寺の役僧や修行僧には使えない。不特定多数の僧侶に通用し、若い人が使用しても違和感がない呼びかけ語は「お寺さん」くらいだろうか。

そして、必ずしも呼びかけに限らないのであれば、僧侶全般を表す日本語で最も浸透した言葉は、「お坊さん」が一番だろうと思う。


バンテー

タイのタマユット派では「ルンピー」や「パンテー」ではなく、きちんと「バンテー」を使う。私が泊めてもらったバリ島のタマユット派寺院でも、インドネシア人の若い寺男の方が、「バンテー」と呼んでくれた。

余談ながらインドネシアには少数ながら仏教徒もいて、私はテーラワーダ僧として巡礼中、ジャカルタやボロブドゥール遺跡の上座部寺院やバリ島のクタ・ビーチ近くの中華寺院にも泊めて頂いた。

ところでタイ語でお坊さんに呼びかけるときに「タン」という言葉を使うこともあるが、これは僧侶を指す言葉ではなくて、「あなた様」というくらいの最上級の二人称だ。僧侶そのものを指すタイ語は「プラ」「(正確にはプラッソング)という。

メーチー

タイにおける女性修行者のこと。上座部では比丘尼(尼僧)の法統が絶えているので正式な尼僧は存在せず、タイでは頭を剃って白衣を着け八戒を守るメーチー(ミャンマーではこれをメーティラもしくはティラシンという) と、頭を剃らず五戒を守るメーチー・ポム(ポムは髪の毛のこと。日本語でも頭を剃らない僧侶のことを有髪という)がいるだけだ。

←(画像はバンコクのワット・サケット寺院で売られていた在家仏教徒人形。女性がメーチー・ポム)

 

ただし、スリランカでは近年に比丘尼制度を復活させたので、今はタイにもスリランカから法統を継いで正式に得度した比丘尼がいるそうだ(2002年2月18日付朝日新聞)。

プラユキ・ナラテボー師によれば、タイには現在、正式な沙彌尼(サーマネーリー。成年に達さない見習い尼僧、黄色い衣を着た正式な女の小僧さん)もいるとのこと。

ちなみに前川健一氏は名著「バンコクの好奇心」(めこん)の中でメーチーはパンツを履かないのではないかと推測しておられるが、私が聞いたところでは、履いているとのことだった。